リサイタルの最後に選んだのは、アルフレード・カタラーニのオペラ《ラ・ワリー》。
カタラーニは、プッチーニとほぼ同じ時代を生きたイタリアの作曲家です。けれど、その生涯はとても短く、1893年、39歳という若さで亡くなりました。
《ラ・ワリー》は、その前年の1892年に初演された、カタラーニ最後のオペラです。
現在では〈Ebben? Ne andrò lontana〉があまりにも有名ですが、オペラ全体が上演される機会は決して多くありません。
物語の舞台は、オーストリア・チロル地方の山岳地帯。主人公ワリーは、強い意志を持った若い女性です。
父親から、自分の望まない男性との結婚を迫られた彼女は、それを拒みます。
「従わないのなら、この家を出て行け」
そう言われたワリーが選ぶのは、父に従うことではなく、故郷を離れること。
愛する故郷を捨ててでも、自分の意志を曲げない。そんな女性です。
けれどワリーは、ただ「強い女性」なのではありません。愛する人への激しい想い、嫉妬、怒り、孤独。
感情がとても激しく、それゆえに自分自身も傷ついていく。
そして彼女を取り囲んでいるのが、圧倒的な自然です。
雪に覆われた山々。
谷。
吹きつける風。
そして最後には、雪崩という巨大な自然の力が物語を飲み込んでいきます。
人間の感情がどれほど激しく燃え上がっても、その向こうには、人間の力など到底及ばない大きな自然がある。
私は《ラ・ワリー》に、そんな独特のスケールを感じますそして興味深いのは、この作品が生まれた時代。
イタリア・オペラはやがて、プッチーニらの新しい時代へと向かっていきます。
その少し手前で、カタラーニはイタリアらしい美しい旋律を持ちながら、オーケストラや自然描写にも大きな広がりを持つ独自の世界を作りました。
《ラ・ワリー》の中で最もよく知られているのが、ワリーが故郷を離れることを決意して歌う〈Ebben? Ne andrò lontana〉。
「それなら? 私は遠くへ行きましょう」
悲しいから去るのではなく、自分で「去る」と決める。
リサイタルの最後にこの曲を置いたことにも、私なりの意味があります。
次回は、この〈Ebben? Ne andrò lontana〉について書きたいと思います。
.png)
