リサイタル後半、レハールの歌曲に続いて演奏するのは、エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトのオペラ《死の都》より〈マリエッタの歌〉です。
コルンゴルトは、1897年に現在のチェコ・ブルノに生まれ、ウィーンで育った作曲家。幼い頃から驚異的な才能を示した「神童」として知られ、若くしてその才能を高く評価されました。
そして1920年、わずか23歳の時に発表したのが、代表作となるオペラ《死の都(Die tote Stadt)》です。初演を目前にした頃、プッチーニも若きコルンゴルトを「新しいドイツ音楽の大きな希望」と高く評価していました。
原作は、ベルギーの作家ジョルジュ・ローデンバックの小説『死都ブリュージュ(Bruges-la-Morte)』。
舞台となるのは、ベルギーの古都ブリュージュ。
物語の主人公パウルは、亡くなった妻マリーを忘れることができず、彼女の髪を遺品として大切に保存し、過去の記憶の中で生き続けています。そんな彼の前に現れるのが、踊り子のマリエッタ。彼女は、亡き妻マリーと驚くほどよく似ていました。パウルはマリエッタに惹かれていきます。けれど彼が愛しているのは、目の前にいるマリエッタなのか。それとも、彼女の向こう側に見ている亡き妻マリーなのか。
物語が進むにつれて、現実と幻想、生と死、現在と過去の境界は次第に曖昧になっていきます。
《死の都》という題名からは、とても暗く、重い物語を想像するかもしれません。
けれど興味深いことに、この作品にはもともと《生命の勝利(Triumph des Lebens)》というタイトルが考えられていました。
物語の最後、長い幻想から現実へと戻ったパウルは、亡き妻への執着から離れ、ブリュージュを去ろうとします。
つまりこの作品は「死」に囚われていく物語であると同時に、そこからもう一度「生」へと戻っていく物語でもあるのです。
生と死。
現実と幻想。
過去と現在。
《死の都》の世界は、光と影のあいだを行き来するようです。
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