《死の都》の中でも、特によく知られているのが〈Glück, das mir verblieb〉。
一般に〈マリエッタの歌〉と呼ばれている一曲です。
劇中では、マリエッタとパウルによるソプラノとテノールの二重唱として歌われますが、コンサートではソプラノ・ソロとして演奏される機会も多い曲です。
甘く、どこか懐かしく、夢と現実のあわいを漂うような旋律。
劇中、マリエッタがこの歌を口ずさむと、パウルは驚きます。それは、亡くなった妻マリーと歌った思い出の歌だったから。
パウルにとってこの旋律には、愛した人との記憶、喪失、そして今も手放すことのできない過去が重たく結びついています。
けれど、踊り子のマリエッタにとっては違います。
「ああ、なんだかこの歌、知っているわ」
そんな軽やかさ。
一方には、人生を止めてしまうほどの記憶。
もう一方には、どこかで耳にしたことのある歌。
同じメロディーなのに、その重さがまるで違う。
そして私は、この曲を聴いていると、のちにコルンゴルトが活躍することになる映画音楽の世界を、どこか先取りしているようにも感じます。
コルンゴルトは後にハリウッドへ渡り、映画音楽の世界でも活躍することになります。
現実にいるマリエッタと、パウルの記憶の中にいるマリー。
現在と過去。
目の前の女性と、もう会うことのできない女性。
その二つが、ひとつの甘美な旋律の中で重なっていく。
美しいだけでは終わらない。美しさの向こうに、「影」が見えている。
.png)
