ヴィヴァルディが生きた18世紀のヴェネツィアから時を経て、イタリア音楽は大きく変貌を遂げました。バロックの劇場的な華やぎと人間の陰影を映した音楽は、19世紀を経てヴェリズモ・オペラの時代へ進み、さらに20世紀には戦争と近代化の波にさらされます。そのなかで登場したのが、オットリーノ・レスピーギでした。
1879年ボローニャに生まれたレスピーギは、ロシアでリムスキー=コルサコフに学び、オーケストレーションの鮮やかな色彩感覚を身につけました。ベルリンではブルッフにも師事し、国際的な視野を養います。やがてローマのサンタ・チェチーリア音楽院で教授として教育に携わりながら、自らの創作を広げていきました。
20世紀初頭のイタリアでは、プッチーニをはじめとするヴェリズモ・オペラが人々を魅了していました。しかしレスピーギは、そうした流れとは別に、古楽や民謡に心を寄せました。彼の作品には、過去の旋律や自然の響きを近代的な語法で甦らせ、生命の息吹を新たに与える姿勢が一貫しています。
今回のリサイタルで取り上げる《トスカーナ地方の四つのリスペット)》を取り上げ、民謡詩の言葉と音楽がどのように結びついているのかを見ていきたいと思います。
トスカーナ地方の四つのリスペット”は、1918年、第一次世界大戦が終わった直後に作曲されました。アルトゥーロ・ビルガが採集したトスカーナ地方の民謡詩に基づく4曲には、人間の営みのさまざまな断片が映し出されています。赤ん坊の誕生を喜び祝う声、若者の恋のときめき、農村の日常の素朴な光景、別れの哀しみ。どれも生活に根ざした感情であり、生命そのものの輝きです。
レスピーギはシンプルでありながら色彩豊かな音楽に仕立てました。旋律は自然で親しみやすく、それでいて近代的な和声がさりげなく添えられ、素朴さと洗練が共存しています。そこには、ただの民謡編曲ではない、芸術としての昇華があります。響き全体に満ちているのは、未来への希望を感じさせる力強い生命力です。
トスカーナ地方といえばイタリア北部フィレンツェを中心とした地域。その地域の民謡を素材としたレスピーギの4曲からなる歌曲集です。愛らしい素朴な歌詞とメロディが、レスピーギの近代的なハーモニーの上で響くのが美しく、第1曲目の子供に寄せた流麗な喜びのメロディ、2曲目の子守歌のように静かでやさしい響き、三曲目のときめく、しかしどこか上安を秘めた浮遊感あふれる恋の歌、そして最後のとてもユーモラスな情景描写と、どれも素敵な曲ばかりです。
次回はこの曲集の第一曲、《Quando nasceste voi(あなたが生まれた時)》について話したいと思います。

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